トム君の書評

日々の生活の中での書評

ある隻脚(片足)教授の一生

著書:清光照夫   分野:自伝/思想、経済

出版:近代文芸社

第1刷 2002年11月

 

父が友人だった、東京水産大学の経済学の教授だった清光先生の一冊。

自分史の一冊でやけに薄いのは学生生活がメインで就職されてからの記述が非常に短いためだ。これはなんでなんだろう? 詳しいことは書いてないのでわからないが、6歳で片足を失われたのだからそのご苦労は察するに余りある。しかし、そんな苦労をものともせず高校から家を離れて一人暮らしされているのだからさすがである。

学者なので、いろいろと思想上のことで言いたいことがあるのだろうと思うがこの本には、あまり詳しく書かれてはいない。ただ、わずかに述べられた中に感じられるのは、シュンペンターはマルクスに影響を受けていたと思われることとか、あるいは国を豊かにするには一人一人の欲望は抑えるべきだとか、共産主義への評価が感じられる一方で、愛する母が愛国婦人会に入っていて戦争が終わるとすぐ亡くなったことなども書かれているし、仏教や武士道への崇敬も感じられるので、かなりいろいろなものが入り混じった思想を持たれているのではないかと思われる。

それよりは、学生時代から培った交友関係とそれがその後の人生にどのような影響を与えたかが詳しく述べられている。私のようにほとんど友人などいない人間からすると、確かに親しい友人は確かに本当に良いものだと思う。

先生が亡くなられて10年になるのだろうか? 亡くなられた後でもこうやって出会えることはありがたいことだと思う。