トム君の書評

日々の生活の中での書評

蒼氓

著者:石川達三         分野:小説/文学

出版:新潮文庫

初版:昭和26年12月

昭和61年10月 61刷

 

1930年、ブラジルに「ラプラタ丸」で向かう900人余りが収容所に収容されてから、ブラジルのサンパウロに到着して生活を始めるまでの様子が描かれている。

 第1部 蒼茫: 収容所生活 8日

 第2部 南海航路: ブラジル到着までの航海 45日

 第3部 声なき民: ブラジルに入植するまでの数日間

この小説は、特定の主人公がなくて、フォーカスが場面場面に次々に移る形で描かれている。特段珍しくもないのかもしれないが、雰囲気を現すのにはわかりやすい気がする。そのなかでも、印象的な人物が何人かいる。門馬家の老母とその二人の純真な息子。佐藤姉弟。監督の村松と、助監督の小水など。

 感じるのは、今から思えばはるかに厳しい環境での日本人の力強さと前向きさであり、苛烈な環境でももともと病人の死者一人のみで航海を乗り切り、移民たちが力強く生活し始めることである。こういうところは見習いたいが、私のように健康にやや不安のある人間にはしたくてもできないことかもしれない、、、。

 北杜夫が「輝ける青き空の下で」全4巻を戦後書いている。あとがきでは触れていなかった気がするが、この本をかなり意識して、この本を超えようとして書いたように思われる。(そして、実際内容的にはこの本よりはるかに盛沢山である)

 石川達三については、以前にほかの本も1冊くらい読んだ気がする。良い作家だと思うが、重厚で読んでて疲れた気がする。しかし、この本はかなり読みやすいし内容も良くて同じような文体ならまた読みたくなる気がする。