血族
著書:山口瞳 分野:小説/文学
文春文庫
第1刷 昭和57年2月
第3刷 昭和57年6月
この本も父の遺品の中から見つけたものだ。第27回菊池寛賞受賞と後ろ書きにある。
山口瞳は、以前に「けっぱり先生」を読んだのと、この本を読んだだけだが、内容の良さはともかくやや重苦しくてくどい文章だ。軽快とは言えないので、面白くない内容だと放り出しそうだ。
ところで、この本に関してはこの文体と内容が見事にマッチしている。「血の塊」などというおどろおどろしい表現が面白さを引き立てている。
この話は、私が中学校くらいの時にNHKのTVドラマで見たことがある。当時、小林桂樹が演じていて、ぐいぐい引き込まれる内容に強烈なイメージを受けた。追いかけても追いかけてもなぞは晴れない、、、。最後にたどり着いた答えに主人公は複雑な表情を見せていた、、、。
こちらの原作ももちろん話はほとんど同じなのだが、事実はさらに複雑である。この話は作者の血族を描いたもので、想像はほとんどなく「小説」なのかもよくわからない。「私小説」というのとも少し違う気がする、、、。作者は50歳までこの問題を避けていたため、もっと若いころに探求していれば比較的簡単に答えにはたどり着けたのかもしれないが、その時になって始めたため現実には無数の壁に突き当たることになる、、、。最後の2章は、母の血族の探求に偏っていた内容が父側の話になるとともに全体の答えが暗示されて晴れ晴れとした気持ちになる。
私自身は、田舎から出てきた父と母だけの家庭に育ち、従兄弟も少なく伯父伯母は遠くに離れている人が多くて親戚というものが少ない環境だった。今になってみると少し寂しく思える。ちょうど作者と同じくらいの歳で父もなくなってしまったので、作者と同じような探求をしてみたい気がふとわいたりするが「いったい何のためか」と人に問われてきちんとした答えを持てる気がせずおそらく実行できないのかと思っている、、。