トム君の書評

日々の生活の中での書評

歴史を紀行する

2017/6/26 読了 

著者:司馬遼太郎              分野:歴史/随筆

文春文庫   

1976年10月 第1刷

1980年9月  第9刷

  

司馬遼太郎は、30歳くらいまでよく読んだ。ファンがとても多いとは思うが、本を読む人も減ってきたので、亡くなられてからは昔ほど読まれていないのかもしれない。内容は文句なく面白いのだが最近少し気を付けて読むようにはしている。日本では司馬史観が圧倒的な力を持っていて、日本の歴史上の人物像は彼の小説で決まっている気がする。乃木大将、坂本龍馬その他諸々、、、。それらももちろん司馬遼太郎が書いているのだから資料に基づいているだろうし、小説であれば著者の主観が入るのも当然だと思うが、あの歯切れの良い文章で決めつけられてしまうと頭の中はそのイメージでいっぱいになってしまうのはやや問題に思える。こんにちは多様性の時代なわけで、別の解釈も様々あるのだろうから、彼の作るイメージはあくまで小説の中のものと考えるようにしている。

 この本では、日本の12の地方の人間と風土が描かれる。45年以上昔に書かれているので、今より地方ごとの特色ははるかに濃厚であったと考えられる。どれも興味深いものだが、もっとも頭に残ったのは、金沢においては、前田氏が徳川時代に生き残るために謀反心なきことを示すために武断の面を押し隠し、ひたすら文化国家の道をまい進したため、異常に高度な芸術を発達させたことがある。父が石川県の出身で何度か金沢に行ったことがあるが東京にない洗練されて優雅な街並みや食器、和菓子などには以前から感心していた。最近北陸新幹線でにぎわっているのも自然な流れだと思う。

 もう一つ、印象的なのは、高知のはなしで、ここではもちろん坂本龍馬が出てくるが、こちらでは土佐弁がドイツ語のように日本の中でも最も論理的で緻密であり、それが坂本龍馬の思想を生んだことが述べられている。そういえば私の大学の友人で高知出身の人がいるが今思うとずいぶん議論好きの人で、今精神科の医者をしているがきっとあっているのだろう。

 風土というのは、昔ほどあらわでなくなってきてはいるが色濃い力を今でも持っていそうだが、私のように地方出身の両親が都会に出てきて、今やその出身地とのつながりもほとんどない私のような人間にはかなり希薄なものだ。今一度地方性というものを利用すれば最近増えている引きこもり対策にも利用できるのではないか。